「ある時は片目の運転手、またある時はアラブの大富豪……」
ピンクレディーか?ですって?
いいえ。
あの歌詞にはしっかり元ネタがあるんです。
七つの顔の男・多羅尾伴内。
GHQが生んだような謎の変装探偵でした。
演じるのは片岡千恵蔵。
活動写真こと無声映画の時代から活躍する大物タレントです。
何しろ時代劇六大スタアの一人です。
あとの五人は長谷川一夫、大河内傳次郎、嵐寛寿郎、阪東妻三郎、市川歌右衛門です。
日本が太平洋戦争で大敗し、マッカーサー元帥が厚木に降りてきました。
GHQが作られてサンフランシスコ条約発効までの間、日本は米軍に占領され、オキュパイドジャパンでした。
占領軍はチャンバラ映画の撮影を禁止。
理由は軍国主義を想起させるから。
時代劇スタアも映画撮影スタッフも困りました。
自分のところの大スタアに変装の得意な謎の探偵をやらせよう。
刀を禁止されたから、武器はピストルだ!
こうして七つの顔の男が生まれました。
荒唐無稽で演出がときどき変だって指摘もありました。
でもシンプルで痛快なストーリーが非常にウケて大ヒットしました。
シリーズで13作。
全部大映で撮らなかったのは大映の永田雅一社長と喧嘩したから。
「多羅尾伴内シリーズは幕間の繋ぎ。今後大映ではより高い芸術作品を出します」
社長のコメントで片岡千恵蔵はぶち切れました。
好き好んで荒唐無稽な映画に出ているつもりはない。
興行的に成功したから大映の経営を考えてやってるのに幕間映画と馬鹿にして!
サンフランシスコ条約締結後はチャンバラ映画も解禁。
片岡千恵蔵も時代劇撮影を再開しました。
映画の遠山の金さんはそのあたりの作品ですね。
併せて撮影が進んだ東映版多羅尾伴内は荒唐無稽で痛快な娯楽作品に特化していました。
多羅尾伴内は大映時代から白黒映画でしたが、シリーズの最後の二作「十三の魔王」「七つの顔の男だせ」だけはカラー映画です。
相棒の大沢警部はミラーマンの御手洗博士。
悪者は雷オヤジの進藤栄太郎。
脇役でデビューまもない高倉健さんや地獄大使やテレビ版初代水戸黄門がチラチラ。
多羅尾伴内終了後は映画会社経営の仕事がメインになりましたが、たまに時代劇に出てました。
大岡忠相の親父さんで旗下の爺様。
弾けまくってる元気なじいちゃんが印象的でした。